「子供の意見を尊重する」という魔法の言葉について考える

子供が習い事を始めたり、学校や就職の進路を決める時、私たち大人は「子供の意見を尊重して」「本人が決めたから」という言葉を使うことがあります。

「子供の意見を尊重して」「本人が決めたから」という言葉は、一見耳障りが良く、保護者の模範となる言葉に聞こえます。

しかしながら、その言葉を紐解くと、本人の決断を大切にする気持ちの裏で、保護者が想定していた決断になって良かったという安堵感が含まれていそうです。

 

私たちが、ついつい使ってしまう「子供の意見を尊重して」は、本当に正しい選択になっているのでしょうか。

子供の意見を聞かずに、保護者の意見を主張するのは間違っているのでしょうか。

今回は、「子供の意見を尊重して」について、色々な角度から考えてみたいと思います。

 

「子供の意見を尊重する」は、何かを決断する場面で使われる


私たちが「子供の意見を尊重する」という言葉を使う時は、何かを決断する場面が多いように思います。

クリスマスプレゼントを決めたり、習い事を決めたり、進路を決める時に使います。

子供の人生で節目となるような大事な決断をする時に、保護者が本人の決断を邪魔しないという意味で使われているように思います。

 

したがって、子供がおねだりする時や、ゲームをもっとしたい時、お風呂に入るタイミングにはあまり使われません。

多くの家庭では、子供の意見を尊重する場合とそうでない場合に分かれているということです。

一方の子供は、意見を尊重してもらえる時ともらえない時の境目を見極めなければなりません。

 

しかも、その境目は大人それぞれに異なり、その日の気分や状況によって変化していきます。

自分の意見を正直に言う時と、ある程度の空気を読みながら意見をいう時を使い分ける。

子供の意見には、そういった見えないバイアスがかかっているということを知っておくべきです。

 

ひとつひとつの選択が人生に繋がっている


 

人生=選択×偶然×運命である

自分の意思でコントロールできるのは選択だけである

 

これは、インド出身のコロンビア大学教授シーナ・アイエンガーの言葉です。

アイエンガーは、生きていく上で繰り返される『選択の質を高めること』が大切であると説いています。

思い込みをなくし、選択肢を増やし過ぎず、また自ら創造することが人生を豊かにすると言います。

確かに、進路のような大きな決断だけでなく、今日着る服をどうするか、どの道を通ってどの方法で目的地にいくかによっても人生は変わりそうです。

そういった日常の小さな選択に責任を持つという考えは、育成年代に身に付けて欲しいものです。


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子供の選択は、親が与える選択肢に影響されている


例えば、運動が好きな子供がいるとします。

体験会でサッカーの楽しさを知った子供は、「僕もやりたい」となり、その後サッカー一色の生活が始まります。

まさに「子供の意見を尊重する」の代表的な話ですが、実はここには保護者の意向が多分に入っています。

 

なぜなら、たくさんのスポーツの中からサッカーを選んだのは保護者で、体験に行くサッカー教室をどこにするかを選んだのも保護者であるからです。

もし、サッカーと野球両方の体験教室に行っていたら、もし、もっと強いチームを知っていたら、そのサッカー教室には行っていなかったかもしれません。

無意識ではあるものの、保護者が知っていたり容認できる選択肢だけを選んで子供に与えているということです。

 

保護者が与える選択肢と子供の意見は、年代によってその関係性が異なります。

年齢が上がるにつれ、子供が自ら見つけてくる選択肢が含まれるようになり、保護者が知らなかったり理解しがたいものが増えていきます。

子供のやりたいを限りなく尊重するであれば、こういった保護者が未知のものも考慮する必要があります。

例えば、子供がYou Tuberになりたい場合と、Jリーガーになりたい場合、どちらがより応援しやすいでしょうか。

アイドルになりたい場合と、パティシエになりたい場合、どちらが応援しやすいでしょうか。

おそらく多くの保護者は、Jリーガーやパティシエの方が身近にあり、なるための情報も入手しやすいため、親身になってサポートできるように思います。

このように保護者に経験があったりイメージが湧くものは、安心感があり応援しやすくなります。

 

逆に保護者が未知のものは、目的に対して具体的な方法が思いつきません。

日常生活で触れる機会が少なく、手持ちの情報が少ないために、子供の意見を尊重しにくくなります。

サッカーが未経験の保護者なら、近くのサッカー教室を調べ、体験会を繰り返しながら、色々なチームに触れる機会を増やしていく。

子供たちに正しい選択をしてもらうには、保護者も自ら情報を集め、実際に体験をしながら選択肢を用意するのが良いように思います。

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子供はすべての意見を尊重されたいのか?


次に、子供側から「子供の意見を尊重する」について考えていきます。

「子供の意見を尊重する」というのは、保護者にとって聞こえの良い言葉です。

ただ、子供たちは本当に意見を尊重されたいと思っているのでしょうか。

 

大事な決断を誰かに決めてもらった方が安心という人は、実は多くの大人にも見られます。

外食をしに行く時に「何食べたい?」と聞かれるよりも、「ここ美味しいから行こう」と言われる方が好きという人はその傾向があります。

大人でもそう思うことが多いのだから、経験の少ない子供ならなおさらです。

子供には「自分の意見を尊重してもらいたくない、なぜなら自信がないから」「信頼できる人に決めて欲しい、その方が安心だから」という気持ちがあることを忘れてはいけません。

 

子供の意見を尊重する身近な例として、「スマホを持つのを誰が決めるか」があります。

スマホを持つかどうかは、子供の意見を尊重して許可されるケースと親が必要に感じて持たせるケースがあります。

子供の意見を尊重して許可された場合、スマホの使用ルールが守れないと使用禁止になることがあります。

一方で、親が必要に感じて持たせた場合は、使用ルールが守れない場合であっても罰則を適用しにくくなります。

なぜなら、スマホが使えないと親も都合が悪くなるからです。

 

子供の意見を尊重した場合

 ⇒使用ルールが守れないと、スマホが使えなくなるという責任(子供の縛りがきつい)

 

親の意見を尊重した場合

 ⇒自己管理も含めてスマホを使えるようになりなさいという責任(子供の縛りが緩い)

 

このように、どちらもスマホを持つという選択ですが、誰の意見を尊重したかによって子供が負う責任の質が異なっています。

子供の立場からすると、子供は自分の意見を尊重されるより、親が必要と感じる状況になったほうが、結果的に自由度が増しています。

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良質な選択は、良質な選択肢から生まれる


子供が一日で使える可処分時間(自由に使える時間)は思っているより多くありません。

上手くバランスをとらないと、今まで勉強やサッカー、睡眠に使っていた時間をゲームやスマホに使うことになり、結果的に何かの時間を削ることになります。

このように、尊重後の想定が甘いと『子供の意見を尊重した』という事実に酔ってしまうわけです。

 

一方の子供は、意見を尊重される代わりに、ルールを守り、問題が起きたら責任を負う義務が発生します。

したがって保護者は、そういったルールや責任がどういうものか想像し、説明する必要があります。

そして時には、ルールを一緒につくったり、一緒に罰を受ける姿をみせていくことが大切です。

大切な家族と共に楽しんだり、傷ついたりすることで、『自由』や『責任』の本当の意味を理解していくように思います。

 

こうして考えると、大きな決断をする時に保護者が言う、「子供の意見を尊重して」や「本人が決めたから」という言葉は、良質な選択肢を用意した上で成り立っていることが分かります。

ここで言う良質は、単に『正しい』という意味ではなく、『しっかり情報収集して選別した』『本人だけでなく家族にとっても納得がいく選択肢である』という意味の方が近くなります。

側にいる人が決断をするための準備や情報収集をしないままに、「どうするの」と迫るのは、ちょっと違うように思います。

 

私たちがついつい使ってしまう、「子供の意見を尊重する」という言葉。

この魔法の言葉は、使い勝手が良いがために、しばしば責任の所在を曖昧にしてしまうことがあります。

  • 保護者は参考例を引き合いに出しつつ、両方の立場から実際に見たり聞いたりして選択肢を用意し、最終的に子供が決断する、が理想。
  • 選択肢を多くすると決断しにくくなり、創造力が乏しいと価値観や知識のバイアスがかかった選択に偏ってしまうことを知っておく。

これを押さえておくと、振り返った時に子供だけでなく保護者からも良い選択をしたよねという実感が出てくるように思います。

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