誰かが買い物をしているのを見ると、自分も買い物がしたくなるあの気持ちをサービスに。

誰かが買い物をしているのを見ると、自分も買い物をしたくなることってありませんか。

例えば、友達が新しい洋服を買ったら、自分も買いたくなる。

家族が携帯を新しいものに買い替えたら、自分も買い替えたくなる。

隣の人がおいしそうに食べているのを見ると、自分も頼みたくなる。

それが、魅力的なものであればあるほど真似してみたくなります。

 

最近、あらためてこんなサービスがあったらいいなというのがあって、忘れないようにここに書いておこうと思います。

それは、「誰かが接客されている映像をネット上でを見ながら、自分も買い物ができるサービス」です。

「それって、オンライン接客とか、ライブコマースと同じでしょ」と言われそうですが、ちょっと違います。

このサービスを考えるきっかけは、2014年に公開されたユナイテッドアローズの『情熱接客』という動画にありました。

 

誰かのパーソナルな一面は、自分のパーソナルに共通している


日本では1000万人以上の人が、小売業と呼ばれる『何かを販売する仕事』をしています。

それぞれの販売員には経験に裏打ちされた技術やホスピタリティがあって、モノを買うという行為が介する販売員によって全く異なることがあります。

どんな接客をする販売員であるかは目に見えるものでなく、どこにでもいそうな普通の人が実はものすごく売上を立てる販売員だったりします。

 

一般的に、顧客と繰り広げられる接客はパーソナルなものであり、普通なら他の人が知り得るものではありません。

ただ、繊細でパーソナルなものであるが故に、そこにはモノを選ぶ上で大切な要素が詰まっていてます。

ある人が思う個人的なコンプレックスや疑問は、誰かが感じるコンプレックスや疑問とどこかで共通しているからです。

『情熱接客』の動画では、荒川さんの飄々としたキャラクターと、トルコというエキゾチックな土地のから生まれた服が重なってスタイリングにいい味付けをしています。

販売員は荒川良々という人物を会話の中から咀嚼し、ウミットベナンの服の中に共通するワードを見つけていきます。

ウミットベナンの服はクラシックスタイルをベースにしながら、新しい感覚を巧みに取り入れているブランドです。

そのスタイルは、コメディとシリアスが緩やかに交差する荒川さんの演技に通じるものがあるように見えます。

 

また、ローラさんのシーンでは、知識というよりも感覚でファッションと触れ合っている人への心地よい距離感が見て取れます。

さりげなく編地の説明を入れたり、「こういう着方をしてみたい」という秘めた要望を汲み取った会話は、彼女が気持ちよく買い物ができるリズムをつくっています。

優れた販売員によって新しい主人を見つけた洋服たちは、纏う人の願望を包み込み、得体のしれない高揚感やこれまでとは違う自分を引き出します。

この動画を見ていると、「芸能人だからできるんだよね」という疑念はいつの間にか消え、「ああ、なんて買い物って楽しいんだ」と、純粋に消費する楽しさを気付かせてくれるのです。

 

売上を伸ばしながら、価値を高めることの矛盾


高級ブランドや高級自動車のような贅沢品だったり、住宅のような一生の買い物だったり、家電や野菜のような日用品だったり。

インターネットの普及で場所を選ばずにものを購入できるようになりましたが、誰から買うというのはまだ選ぶことができません。

 

店舗で買い物をする場合、その売り上げは買った店舗や接客をした販売員の売上として計上されます。

小売業は立地が売上に影響するため、都心の店舗になるほど売上が大きくなり、販売員のスキルの差を正確に測るのは困難です。

そのため販売員が行う目標設定は、客単価やセット率のアップだったり、業務改善の精度のような数値化しやすいものになりがちです。

しかしながら、運や曖昧さに左右されるそれらの目標は、販売員の価値である「この人から買いたい」という気持ちを表すものではありません。

 

売ることが仕事である販売員にとって、自分の存在価値を高め収入を上げていくには、より大きな売上を上げる以外に方法はありません。

したがって、一人の販売員が大きな売上を上げようと思えば思うほど、客数と客単価を上げる必要があります。

すなわち、1つだけ買う人よりも5点買う人を優先して効率よく接客しないと、徐々に売上が上がらなくなっていくわけです。

これは販売に従事する人が構造的に抱えている問題で、本当に接客が好きな人であればあるほど、価値を高めることとの矛盾に悩まされていきます。

 

「誰かが接客されている様子を見ながら、自分も買い物ができるサービス」の良いところ


■ただの傍観者になれる

このサービスの良いところは、ユーザーが直接的に接客を受けない『ただの傍観者である』という点です。

そのため、何も買わなかったとしても販売員との相性が悪かったとしても、いつでも気兼ねなくその接客から抜け出すことができます。

「気付かれないように商品の良いところと悪いところだけを知りたい」「気兼ねなく店を出るボタンを持ちながら買い物をしたい」という一見我がままに聞こえる感情を満たすサービスになっています。

 

買い物モードに入っていない人に関心を持ってもらうには、接客を始めたり終わったり、買うかどうかのタイミングを決めるスイッチを購入者側が持っていることが重要になります。

「普通の買い物でも、買うかどうかは購入者側にあるよね」と思われるかもしれませんが、実際にはそうではありません。

実際には、やっぱり買わないと言いにくかったり、どうしようと迷う時間を楽しみにくかったり、買わなかった時に次に行きにくくなったりするからです。

 

■要約された情報が聞ける

動画では荒川良々さんが洋服のブランドを聞き間違えるシーンがありますが、こういった何気ない会話があとで心地よい経験になることがあります。

販売員がいると、ブランド名の読み方だったり発音だったり、どこの国のブランドであるのかを要約しながら話してくれます。

こういう経験があると「このジャケットかっこいいね」と聞かれたときに、「ウミットベナンっていうトルコ人のデザイナーの服なんだ」と答えることができます。

この情報は、自分で検索したり調べた情報よりも説得力があり、体験と一緒に記憶するため忘れることがありません。

 

■販売員によって紹介の切り口が違う

一見どこにでもありそうなものでも、紹介する人によってその商品がとても良いものに見えることがあります。

顧客の趣味や嗜好を理解した上で、興味を持ってもらえそうな情報を言葉の中に散りばめる技術は、販売員の技術の差を測る方法のひとつです。

買い物が好きな人は、たまには別の販売員からも接客をしてもらいたいなと思うこともあります。

しかしながら、それはある種の浮気現場のようで、気まずい空気が流れてしまうことがしばしばです。

オンラインであれば、担当してもらっている人に気付かれずに、異なる切り口の販売員と買い物を楽しむことができます。

 

■欲しいものを買うが、誰かを応援するに自動変換される

商品説明を読んだり自分で調べても理解できなくても、誰かに語ってもらうとスイスイ頭に入ってくることがあります。

誰かにアドバイスしてもらったり、相談に乗ってもらうことで買い物が充実していく。

このサービスを使うと「気持ちよく買い物ができた」という充実感が、「私の背中を押してくれてありがとう」という気持ちに自動変換されて販売員の売上になります。

 

「この人から買いたい」が「販売員の価値」になる仕組み


自分が実際に接客された気分を味わって、買った気分になってみる。

実際に着る時のコツやデメリットを知った後で、購入するかどうかを考えてみる。

スタッフの意見に左右されずに、本当に欲しいと思ったものだけを購入する。

ネットから機械的に買うのではなく、信頼できる販売員から買ったという安心感を得られる。

買い物をするという行為は同じであっても、後に得られる満足がそれぞれに異なっているのが良いのではないかと思っています。

 

これまでのネット販売は、時間や場所を選ばずに購入できるという利便性により進化してきました。

もし、買い物をよりDX(デジタルトランスフォーメーション)していくのであれば、「この人から買いたい」を購入の選択肢に加え、「購入するきっかけつくってくれてありがとう」という感謝を数値化し、販売員の価値に変換していくことが大切であるように思います。

 

ユーザーは、時間や場所だけでなく、誰から買うかまでを選んで買い物することができ、より心地よい高揚感や充実した気持ちを得ることができる。

販売員は「この人から買いたい」と思ってもらえる人を、店舗とオンラインの両方で増やすことによって自分の価値を高めることができる。

このふたつが絡まり合い、トップ販売員が切磋琢磨するプラットフォームは、買い物することの面白さを再認識させてくれるように思います。

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